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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)8754号 判決 1961年10月31日

原告 東調布信用金庫

事実

原告東調布信用金庫は、被告精工樹脂工業株式会社が訴外日本化粧品容器株式会社に宛て振り出した額面金額合計七百二十万五千円の約束手形計二十二通を、訴外梶原泰治より裏書譲渡を受けてその所持人となつたものであるが、支払期日に右各手形をそれぞれ支払場所に呈示して支払を求めたが何れもその支払を拒絶されたので、被告に対し右手形金合計七百二十万五千円と支払済に至るまでの利息金の支払を求める、と主張した。

被告精工樹脂工業株式会社は抗弁として、本件各手形は被告会社と受取人である訴外日本化粧品容器株式会社との間で、相互に手形を振り出して金融の便宜を計るが、振り出された手形について受取人が割引を受けたときは、受取人が満期に所持人に対し手形金を支払い振出人に迷惑をかけないこと、相互に手形金の請求はしないことを約して、被告は右訴外会社宛金額合計一千二百三十九万五千円三十七通の手形を振り出し、右訴外会社は被告に宛金額合計一千二百九十四万五千円、四十通の手形を振り出したもので、本件二十二通の手形は右交換手形の一部である。しかして、右訴外会社がこれらの手形を原告から割引を受けるに当つては、その代表者である梶原泰治が裏書をなし、且つ担保として同人名義の定期預金四百万円及び時価五百五十万円相当の不動産を原告に提供し、被告と右訴外会社との特約を告げ、原告から右手形金につき被告に対し請求の訴訟をしないという特約を得ているものである。従つて、原告は被告の右訴外会社に対する抗弁を裏書人から告げられて知り、被告を害することを知つて取得したものであるから、被告には支払の義務はない、と主張して争つた。

理由

証拠によれば、本件各手形は、被告が訴外日本化粧品容器株式会社から商品を受け取つてその代金の支払のため右訴外会社に振り出された形式をとつているが、真実は売買とは関係なく、右各手形と見合う金額の約束手形が右訴外会社から被告宛振り出されていて互に受け取つた手形を割り引いて金融を得るためのもので、これらの手形の交換に当つては、右手形を割り引いた者が、満期に所持人に対する支払のための資金を作つて手形を落すこととし振出人は自らの資金で支払をしなくてよい旨の特約をなしていたいわゆる融通手形であること、しかして本件各手形は右訴外会社から訴外梶原泰治に裏書されたが、梶原は右訴外会社の代表者であり、被告会社は同人の援助を受けて設立され、以後被告会社の経営に実権を振つていたもので、右各手形振出の事情を充分知つていたものであること、原告は右梶原から割引を求められ、同人から担保を徴し、割引をなして裏書譲渡を受けたものであることの各事実を認めることができる。

しかしながら、右認定の融通手形とは、振出人である被告は、所持人に対し当然手形金支払の義務を負担するが、受取人である右訴外会社が資金を調達するというものにすぎず、右事情を知つて原告が本件各手形を取得したとしても、その性質上これをもつて直ちに被告を害することを知つて取得したということはできないものである。

また、梶原泰治が原告に対し、担保を供して割引を受けた事実は認められるが、被告の右訴外会社に対する人的抗弁を知つていたと認めるに足る証拠もない。

してみると、被告は原告に対し本件約束手形金合計七百二十万五千円とこれに対する支払済までの利息を支払う義務があり、原告の請求は正当。

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